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カシワ(槲・檞・柏)とコノテガシワ(児手柏・側柏)
 知人からメールを頂戴した。そのメールには、コノテガシワの写真が3葉が添付されていた。
 メール本文には、
 「所用があり、京都大学農学部に出かけたところ、構内で柏の木を見かけたので撮ってきました。文献等では柏の木(葉)は神聖視されていますが、その理由を知らせて下さい。」
とあった。
 添付された写真にはかなり年代を経ていると推測されるコノテガシワの立像、幹上部で枝が立ち上がる様子、そして、コノテガシワの名札のそれぞれが撮影されていた。
 このメールを読んでいて、幾分奇異な感じを抱いたものだった。というのは、私の脳裏の中では、「柏」と漢字表記を見れば、ブナ科の落葉樹のカシワを想起してしまうからだ。だが、上述のように添付されていた写真は常緑針葉樹のコノテガシワだったからだ。更に、奇異感は深まる。というのは、「柏」という漢字は、後述のように、本来的にはコノテガシワに対するものだったのだ。それを我が国では少しも見た目に似ているという印象を受けないブナ科のカシワに宛ててしまったのだった。つまり、誤用してしまったのだった。更に、「文献等では柏の木(葉)は神聖視されていますが、」という文言だった。カシワは我が国で、コノテガシワは原産国の中国で、両者共に知人の申す通り神聖視される樹木であるのだった。もし、それらのことをご存じの上でメールを送って来られたとなると、当方としても迂闊な返信は出来ないと言うことになる。それやこれやで、これまであまり真面目に調べて見ることの無かった「カシワ」と「コノテガシワ」の両者について調べて見た。
 先ず、始めに、カシワの語源について調べて見た。
 1 大槻文彦著 『大言海』(冨山房 1956年)
  ・かしは(カシワ)(名) 葉
   堅し葉の約 葉の厚く堅きを擇みて持ちいる意なり。(出典:『雄略記』
   
飲食の筍(け)として用いる木の葉の称。
  ・かしは(カシワ)(名) 柏
   かしは木の略、此樹は、しなやかにして、
食を盛るに最も好ければ、其名を専らにせしならむ
   (出典:『本図倭名』)
 2 新村出編 『広辞苑 第三版』(岩波書店 1955年)
  ・かしわ(カシハ)[槲・檞・柏]
   ① ブナ科の落葉高木(後略)
   ② 柏(はく) ヒノキ・サワラ・コノテガシワなどの常緑樹を古来「かしわ」と訓みならわす。
   ③ (多くカシワの葉を使ったからいう。)
食物や酒を持った木の葉
 3 大野晋・佐竹昭広・前田金五郎編 『岩波 古語辞典』(岩波書店 1974年)
  ・かしは(カシワ)(槲・柏)
   ① ブナ科の落葉喬木。葉は広く、
食物をつつむのに使った
 4 白川静著 『字訓』(平凡社 1987年)
  ・かしは(柏・槲)
   ブナ科の落葉喬木。(中略)
葉は倒卵形で大きく、食物を盛って用いることがあった。(中略)
   柏(はく)は[玉篇]に「松柏なり」とあって、和名は「かへ」。
   これを「かしは」とよむのは、我が国での用法である。
   国語の「かしは」にあたるものは槲(こく)。その葉で柏餅を包む。
 5 堀井令以知編 『語源大辞典』(東京桃出版 1988年)
  ・カシワ(柏・檞)
   ブナ科の木。カシワ餅は、
その葉で食物を包むから、その木をカシワと名付けた。
   食物を包めば、他の木の葉もカサノはと呼ばれた。
   沖縄では、芭蕉はカシノハとという。

   カサ、カシは炊ぐと関係のある語。
   カシ
ワは炊ぐとハ(葉)の構成である。食物を盛る葉、食器の意味で日本書紀にも見える
   「葉、此をばかしはといふ」と。
 6 松田 修著 『古典植物辞典』(講談社 1980年)
  ・かしは 今名:かしわ(ぶな科)
   
カシハの語源は、もとは飯食の物を盛る葉をかく呼んだものらしいが、
   その代表がブナ科のカシワで、今日も柏餅にこのカシワが用いられている。(後略)
 7 松田 修著 『万葉の植物』(保育社 1966年)
  ・かしは(かしわ)
   万葉にはかしは(柏・我之波)の見える歌が三首ある。カシハの名は古今通名で、

   この葉が大形で物を
包むのによく、食器の代用ともなったのでこの名が起こったものである。
 8 木村陽二郎監修 『図説 草木辞苑』(柏書房 1988年)
  かしは(柏)カシワ[槲・檞・葉・加之波・我之波・我之婆]
  ① 赤芽柏(あかめがしわ)・御綱柏(大谷渡または隠蓑)・朴柏(=朴)・柏(かしわ)など、
    
古く食物や酒を盛り、或いは包むために使われた広い葉を持つ植物の類称
   註:
一説に食物を包み炊(かし)ぐ(=蒸し焼きなど)ために使われたものと。
  ② 児手柏(=側柏)・伊吹(=円柏)・檜(=扁柏)など針葉の短い常緑針葉樹
    及びそれに似た岩檜葉(いわひば=巻柏(けんぱく)・石迹柏(いわとがしわ))類の別称。
   註:一説に、
食物を蒸し炊(かし)ぐ土器の詰め物としたものと。
  ③ ブナ科の落葉高木。
   註:和名は、上の①の称が本種に固定したもの。
 9 木村陽次郎監修 植物文化研究会編 『図説 花と樹の事典』(柏書房 2006年)
  カシワ(柏)
  和名由来:① 
かしきは(炊葉)で、古代、飯を炊(かし)ぎ盛るのに多く用いたことから
       ② 同じく、
ケシキハ(食敷葉)の意味
       ③ カタシハ(堅葉)の意味。
       ④ クハシハ(麗葉)の意味。飯を持ったから、または形を褒めて言ったもの。
        他にも諸説あり。
10 牧野富太郎著 『牧野 新日本植物圖鑑』(北龍館 1961年)
  かしわ(かしわぎ、もちがしわ)
  日本名:
カシワは炊葉の意味で食物を盛る葉ということである
  昔は食物を盛る葉をすべてカシワと詠んだが、今日では本種のみの名となった。

 取り敢えず、手近な書から、カシワの語源を探ってみた。
 それぞれの書に見られた内容は次の4点にまとめられるようである。
 A 「堅い葉」からの転訛
 B 「炊(かし)ぐ葉」からの転訛
 C 上のBから意味が広がり、「酒や食物を盛るための葉」、或いは、「食物を包むための葉」の意へと意味が広がりを見た
 D 上のA~Cの意を持つ樹木は、古代には複数あったが、今日ではブナ科のカシワだけに特定されるようになった。

 ここで、コノテガシワは、単純に考えて「コノテ」と「カシワ」の合成語と推測が容易である。だが、コノテガシワとカシワとでは、まるで異質な樹木である。コノテガシワはヒノキ科の針葉常緑樹である。一方で、カシワはブナ科の落葉広葉樹である。樹木の性質からも、見た目でも、この両者には共通点は見られない。加えて、コノテガシワは中国からの渡来植物である。何故この樹木に「コノテガシワ」の名が付いたのか?様々な書が、その語源を、「直立した枝の形状が小児の掌を広げたように見えることから」というような説明がなされている。(写真をご覧になりたい御仁は、コノテガシワの頁を参照下さい。)しかし、これは、コノテガシワの「コノテ」の部分だけの説明と言う事になる。なぜ、この樹木に「カシワ」がついたのかの説明は見られない。
 やはり、「カシワ」とは何かがはっきりすれば、「コノテガシワ」も分かるように思える。
 上にはA~Dまで「カシワ」の語源の要約をしてみた。
 先ず、Aの「堅し葉」からの転訛の結果、かしは(カシワ)となったという場合、カシワにしてもコノテガシワにしても葉が堅くはないではないかとの異論もあろう。しかし、この場合、『大言海』の中では、葉に厚味があるとも述べているので、ある一定の厚味のある葉であると理解できる。
 次に、Bの「炊(かし)ぐ葉」からの転訛であるが、そもそも「炊(かし)ぐ」とは「米・麦などを蒸したり煮たりして飯を作る(上掲:岩波古語辞典より)こと」なのである。ここで疑問が湧いてくる。ホオの葉やカシワの葉の場合、葉面積が大きいので、その上に持ったり、包んだりするには便利であるが、蒸すとなると下から水蒸気を通すには、ホオやカシワの場合、好都合とは言えないのではなかろうか。逆に、ヒノキやコノテガシワの場合、蒸すのには好都合であるが、食物を包んだり、上に盛り上げるのには、必ずしも好都合とは言えそうにない。それでいながら、カシワもコノテガシワも「炊(かし)ぐ葉」として用いられたために、「炊(かし)ぐ葉」から「カシワ」へと転訛したということになる。つまり、カシワとコノテガシワの共通点は炊ぐために用いられたということのようなのだ。
 この辺りの事情について、前川文夫博士は『植物の名前の話』(植物と文化叢書 八坂書房1981年 P.P.122~124)並びに、『朝日百科 世界の植物』(朝日新聞社 P.2455)で次のように考察しておられる。(引用が長くなるので要約すると以下の通りとなる。)
 古代の食物調理法には、我が国においては、たとえばバショウの葉のような大形の葉に包んで焼く、または蒸して焼くという南方系の調理法と、もう一つは、三つ組みの土器の真ん中の部分に例えばヒノキのような針葉樹をパッキング用に詰めて下から水蒸気を通して穀物や豆類を蒸したり、ふかしたりするするという大陸系(北方系)の調理法とがあった。初めは、南方系の調理法によって炊がれたのだったが、大陸から麦類、稗類などの穀物が渡来したことと、大和民族が徐々に北上したこととが要因ではなかったのではなかろうかというのである。つまり、蒸し焼きにするタイプの南方系の調理法に対して、大陸から穀物だけでは無く調理法までもが渡来し、両者は、主食の変化に伴って調理文化様式も変化してしまったと言うような内容である。
 前川博士の推論が正しいとなれば、カシワもコノテガシワも「炊ぐ葉」の役割を担ってきたという共通点を見出せる。そこで、中国から渡来したヒノキ科の針葉樹に「コノテガシワ」なる和名がつけられたことになる。そして、今日カシワと呼ばれる広葉樹は、今度は、飯を盛る食器へと変化してしまったものと個人的には推測されるのである。つまり、食器としての葉、「葉盤(ひらで)」とか「葉椀(くぼて)」へと役割を変化したのではないかと思われるのである。
 上の食器として用いられたカシワの意味で古典に登場するのは以下の通りである。
 歴史・文学関係では、『古事記』、『日本書紀』、『万葉集』、『和漢朗詠集』、『平家物語』、『太平記』、『謡曲』、『御伽草子』、『西鶴集』、『蕪村句集』である。
 コノテガシワの出典について調べて見たが、詳しいデータが無い。上掲の『朝日百科 世界の植物』の「コノテガシワ」の項で、倉田悟博士は、「我が国への渡来時期を江戸時代と言われているが、『万葉集』の「奈良山の児手柏」も「両面(りょうおもて)」と詠われるだけに可能性がないとは言えない。」と述べている。等しく上掲の松田修著『万葉の植物』では、「コノテガシワは日本に自生は無く植栽されているものであるが、此の木の果実は薬用に供され、古く渡来していたらしい。」と述べている。もし,万葉の時代に既に我が国に渡来していたとすれば、様々な文献に登場しても不思議は無いのだが、況してや、松田修先生のいうように薬用として導入されたのであれば、本草書等に登場しても少しも不思議は無い。平安時代には中国の嘉木崇拝の思想が各種展開されているが、もし、平安時代に、コノテガシワが定着を見ていたとするならば、必ずや諸文献に登場しても良かったはずである。だが、万葉集に2首よまれているだけで、その後は、文学・歴史書、或いは本草書や辞書類に登場してこないのである。やはり倉田悟博士の述べたように江戸時代に渡来したとするのが正しいのかもしれない。因みに、本草書関連では、『大和本草』、『物品識名』、『本草綱目啓蒙』に登場している。
 次に、ブナ科の落葉広葉樹であるカシワに関する出典としては次のような書が挙げられる。
 先ず、文学・歴史関連では、『播磨風土記』、『豊後風土記』、『催馬楽』、『万葉集』、『伊勢物語』、『大和物語』、『枕草子』、『源氏物語』、『蜻蛉日記』、『新古今集』、『山家集』、『平家物語』、『近松浄瑠璃集』、『芭蕉句集』である。次に、本草書関連では、『延喜式』、『本草和名』、『倭名類聚鈔』、『和漢三歳図会』、『物品識名』である。
 なお、カシワと同義ではあるが、「柏木」としては、次のような出典を挙げられる。『源氏物語』、『本草和名』、『倭名類聚鈔』等である。
 知人のメールに「柏」は神聖視されたとの文言があったが、確かにカシワは特別な存在であったのだった。古典文学に詳しい御仁ならば、思い起こすのは、『源氏物語』であろうか、或いは『枕草子』であるのだろうか。源氏物語には、我が子と知りつつ女三の宮と通じてしまったご存じ柏木中将が登場する。この両者の間に生まれたとして登場するのが薰である。柏木中将も、女三の宮もそれぞれ罪の意識を強く感じ入り、柏木は病に伏し、女三の宮は尼に転じてしまうのだった。この悲劇の主役である中将に、作者である紫式部は、何故「柏木」の名を与えたかについては、諸説があるが、詳細に関しては『源氏』の解説書などを参照して欲しい。『源氏』のこの辺りの終末箇所に、落葉の宮と夕霧との間で取り交わされた両者の歌の中に「葉守の神」が登場する。この「葉守の神」については、『枕草子』にも「柏木、いとをかし、葉守の神のいますらんもかしこし。兵衛の督(かみ)、佐(すけ)、尉(そう)などいふもおかし。」と記述されている。ここに、「葉守の神」とは樹木に宿って、葉を茂らせ守ってくれる神なのである。そのことから、皇居を守る「兵衛」及び「衛門」をも意味するようになっているのである。そこで、カシワは神事に用いられるようになっているのだった。
 カシワを神聖視したことを物語る語として「かしはで(膳・膳夫)」がある。このことについては、本山荻舟著『飲食事典』(平凡社 1958年)に次のように説明されている。
 かしわで 膳
 飲食の饗膳。膳を訓じてカシワデというのは、上代にカシワの広葉を用いて飲食を盛ったからであり、「テ」は葉椀(ひらで)・窪椀(くぼて)などのように食器具の意である。そして食饌そ掌る職務の人は膳臣(かしわでのおみ)であったが、やがて職掌そのものをカシワデとよぶに至って、膳手または膳夫と書くようになり、朝廷の膳部を司るとkろおをカシワデノツカサ、またカシワデノオサともよんだ。往古は飲食のことを最も重んじたので、現に日本料理の祖神と仰がれる磐鹿六雁命(いわかむつかりみこと)は、孝元天皇の曾孫と伝えられる皇族で、景行天皇のカシワデであった。
 また、別に、同じ発音で「かしはで(柏手・拍手)とは、神前で敬虔な信条で両の手を大きく開いて打ち鳴らすことであるが、この語からも、カシワと神との結びつきがうかがえるのである。蛇足であるが、やがて、「柏手」の木偏が手偏に変わり「拍手(はくしゅ)」も元々は「かしはで」に由来していることは容易に推測が可能である。知人の申す通り、カシワの木は昔から神聖視されてきたことになる。
 上のような神聖視することとは別の観点ではあるが、筆者の住む地域(関東地方)では、カシワの葉は、秋に枯れても枝に残り、新葉と交代することから、ユズリハ等と同様の意味から世代交代が円滑に行われるようにと庭に植えることが多いことをここに付け加えておきたい。それが全国的なものか否かは未調査である。
 事のついでに、「柏餅」についても調べて見た。上掲の本山荻舟著『飲食事典』(平凡社 1958年)では、柏餅が登場するようになるのは江戸期に入ってからであり、それまでは、端午の節句にはチマキが主流だったという。江戸初期には、チマキと柏餅とが併用されており、やがて、柏餅が主流になるのだが、それは江戸中期以降と言う事である。しかも、カシワは東北地方では容易に入手できたが、西南の暖地では得がたいために、サンキライとも呼ばれるサルトリイバラの葉を二つ折りにして用いた旨の記述が見られた。
 カシワの学名は、Quercus dentata Thumb.である。属名のQuercusとは、ケルト語のquer(=良質の)とcuez(=材木)の合成語ということになる。ブナ科コナラ属の樹木は英語ではOakということになるが、欧米では材の美しさから重要な家具材であったのだ。また、酒を醸成させるための酒樽にも欠かせない貴重な存在だったのだ。そこで、Quercusという属名が出来たとしても不思議は無い。因みに種小名のdentataとはギリシャ語からで「鋸歯のある」の意である。
 カシワは中国にも産し、中国名は「槲樹」である。このコーナーでは毎度お世話になっている書、加納喜光著『植物の漢字語源辞典』(東京堂出版 2008年)では、次のように説明している。つまり、カシワは果実がドングリ状で、それを包む殻斗は大形である。語源はこれを斛(ます)に見立て多命名であろうというのである。ところが、我が国では、上述のように、カシワも、コノテガシワ(柏)も等しく炊(かし)ぐ葉であったことから、「柏」の文字を誤用してしまったことになるのだった。
 一方のコノテガシワも中国では神聖視されているのだった。その前に、学名は、当初、リンネによってThuja orientalisと命名されている。つまり、クロベ属に分類されたことになる。この学名の種小名に見られるorientalisとは「当方の」の意である。リンネは、面白いことにアメリカ産のニオイヒバにThuja occidentalisと命名している。occidentalisとはギリシャ語で「西方の」の意である。だが、現在は、Platycladus orientalisとして、1属1種として分類されている。コノテガシワは原産国の中国では「柏」の文字が宛てられる。上掲の『植物の漢字語源辞典』によれば、古代中国では、柏は鬼(邪悪な存在)を退治する効果があると信じられ、墓場に植えられたという。また、正月には、柏の葉を浸した酒を飲む風習もあったという。目出度い象徴ともなり、吉祥図では「柏」は「百」と中国語での読みが通じることから柏の図は「百事大吉」を意味したという。また、漢詩文では「柏」は「松」とともに永遠性の象徴として使われているという。試みに手許の国語辞典を開いて見ると面白いことに気づいた。
 A 岩波書店の『広辞苑』(第三版)
   しょうはく[松柏]:常緑である、松と柏 また広く、「常磐木(ときわぎ)」
 B 講談社『カラー版 日本語大辞典』
   しょうはく[松柏]:マツとコノテガシワ。常緑樹。ときわ木。
 この2冊の辞書を開いた人の中で、「柏」とはブナ科のカシワのことであると思い込んでいる人は、カシワは常緑樹ではないのではないか?と、違和感を持ってしまうのではなかろうか。上掲の『植物の漢字語源辞典』の著者である鹿野喜光氏は、「日本人は柏を誤ってカシワと詠んだ。カシワは落葉樹であるから永遠性の象徴としては相応しくない。」と述べている。
 まるで異質な樹木であるカシワとコノテガシワ、この両者に、「炊(かし)ぐ葉」から、カシワの菜がつき、加えて、本来、「柏」とは常緑針葉樹であるコノテガシワを意味する漢字であったものを、我が国では落葉広葉樹であるブナ科のカシワに誤用してしまったことから、様々な名混乱も起きてしまっていることになる。
 蛇足:まるで関係のないおまけ                          
 ここ数日、ひどい猛暑の連日だった。こんな日には,とても重苦しい楽器の音色は聴きたくはなかった。爽やかな音色と和音構成の調和の取れた旋律を聴きたいなと思った。迷った挙げ句に取り出したCDは「テレマン:トリオ・ソナタ集」だった。主旋律をフランス・ブリュッヘンがブロック・フレーテ或いはフラウト・トラベルソで演奏している。CD2枚組のアルバムだが、全部で19曲のトリオ・ソナタが収録されている。タイピングしながら、BGMにはうってつけのCDかなと自分で自分に言い聞かせていたものだった。
H.23.0816